日本で婚姻届を出し、配偶者となった私たち2人。ところが生活は不安定そのもの!まさにその日暮らしそのものだった。1ヵ月後の家賃は払えるのか?この先おなかいっぱい食べることはできるようになるのか?・・・そんなことばかり2人話し合っていた。だって私たち、2人して職なしだったんですから!

彼の預金残高は減る一方で、私は日払いのアルバイトをして何とか食いつないでいた。そんななか、彼の働き口がやっと見つかったのである。


それは一軒の高級洋菓子屋った。そこに長く働くフランス人の雇用担当者がいて、彼が採用を決めてくれたのだ。それまで、英会話の先生やフランス語教師など、ありとあらゆる働き口に当たってきた彼は、何度も日本語力不足を思い知らされ、半分あきらめかけていた。だからこの洋菓子店の仕事がたとえアルバイトであったとしても、働かせてもらえるだけありがたい。ひとまず先行きが見えてきたということで、私たちはほっと一安心した。

初出勤の朝。彼は緊張しつつも興奮したような面持ちで「いってきます!」と、玄関先から出ていき、私は1日中、「あー今、何しているのかな?」だとか「どんな仕事をさせられているんだろう?」と思いを巡らせた。

彼が帰ってきた。彼の表情が暗い。疲れきっている。

嫌な予感がしたが、それでも、「今日はどうだった?」と聞いてみた。

彼の話では、1日中洋菓子店の玄関の前で、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」と声をかけるだけだったらしい。まぁそんなもんだろうなぁ…と思った。日本で日本語が流暢に話せない外国人ができる仕事と言えば、外国人をマスコットのように遣うぐらいの仕事しかないだろうなぁ、と。

しかし彼は何ともやりきれないといった表情でポツリと言った。

「誰でもできる頭を使わなくていい仕事だよ・・・。」

それから彼はずっと黙り込んで、1人パソコンに向かっていた。

次の日も仕事から帰ってきた彼は、1人パソコンに向かって黙りこんでいた。

その次の日も仕事から帰ってきた彼は、1人静かにパソコンに向っていた。

彼が気持ちを押し込めながらパソコンに向う毎日が続いた。

私の彼は、

いつもジョークを言っては私を笑わせてくれ、何かおもしろいものを見つければ「リリー、これ見て!」とまるで子どもが母親に自分が書いた作文を見せるかのような、純粋な笑顔を私に向けてくれ、音楽が流れれば踊りだし、お風呂に入れば歌いだし、寝る前にはあれこれ議論する・・・・そんな男だ。


そんな彼がいなくなった。

日本に来たばかりのころ、「僕は毎日いろんなチャレンジしているんだ」と目を輝かせ、「チャレンジの毎日は僕を成長させてくれる」、「だから僕は日本にいられることに感謝しているんだ」と言った、あの若々しくも男らしかった彼が、いなくなった。

私はもう見ていられなかった。

私と結婚したことで、これから彼はどんどん彼らしさを失っていくのだろうか?

私と出会っていなかったら、彼は今も目を輝かせていたんじゃないか?

このまま2人で、安定した生活を送り、子どもを生んで家族をつくるなんてことができるのだろうか?

黙りこくる彼を見るのが辛かった。彼と出会ってからそれまでいろんなこと(悲しいことも)があったが、こんなに辛いと思ったことはなかった。

この日初めて、私たちは「フランスに住む」という話をした。彼がフランスのいい大学に入学&卒業して、いい企業に就職する。それが私たちのプラン。それまでまるで選択肢になく、考えもしなかった「フランス生活」。私はフランスについては全く知らなかったし、フランス語だって全然わからない。彼と出会うまでは大して興味もない異国の1つでしかなかった。そんな国に行って生活する?

迷いはなかった。

どんなことがあっても彼について行く!どんな試練でも受け入れる!これから築く家族のためにフランスで頑張ってみせる!

そう思い、フランス行きを決意した。

同時に私には1つ増えた。

それは「彼が死ぬときに、”あ~俺の人生は最高だったなぁ”と思う」こと。

彼にはいつも、いつまでも幸せでいてほしい。私が彼を世界で一番幸せな男にする。

だから私は今、フランスに住んでいる。

フランスでの生活は、最初はホームシックに陥ったりしてなかなか大変な時期もあったが、フランス行きを決めたことを後悔したことは一度もない。

いつも、2人で。

いつも、ポジティブ。

いつも、感謝。

それが私たち夫婦のモットーである。


12 コメント

  1. リリーさんご夫婦は素敵ですね☆
    お互い”らしさ”を大事にされている様子が、
    ラブストーリーを読んでいくうちに解かりました。

    フランスに渡ることの決断も凄い勇気の要ったことだと思うけど、
    それよりも旦那様を思いやるリリーさんの考え方に
    感心しました!!

    これからも変わらず、良い関係のご夫婦で居てくださいね!
    応援しています☆

    • うわぁ~!
      嬉しいコメントありがとうございます。
      喧嘩もするし、まだまだひよっこ夫婦の私たちですが、
      この時の気持ちをずっと忘れずに仲良し夫婦でいられたらなぁ、と思います。

  2. 初めまして!なんとも私たち夫婦と似ていたのでどんどん読んでしまいました!
    サプライズプロポーズの言葉のところでは涙が出てきました。
    私の旦那もデートからのサプライズでプロポーズをしてくれたので自分の時と重ねてしまったのかもしれません。

    お互いフランスでの生活、フランス人の夫、大変なこといっぱいあるけど愛のパワーで乗り越えていきましょうね^^
    そしてタメですよね、きっと^^

  3. リリーさん初めまして。
    私もFrenchの彼と付き合って3年になります。
    先日1日に同じようにサプライズ(ドッキリ?)でプロポーズしてもらいました。そこで調べていた時にリリーさんのページに辿り着きました。
    とってもカワイらしいお2人に和んじゃいました♥
    そしてリリーさんの「私が彼を世界で一番幸せな男にする。」という言葉が響きました。改めて私自身を考えさせられた気がします。

    Franceはどうですか?あたしは去年行き、家族や友達に会いましたが普段もお互い英語のみなので言葉が通じずストレスがたまってしまって(笑)どの道わたし達は英語圏に住んでいるのでFrance行きは全く考えていませんが、リリーさんのこれからの事もどんどん綴って、ますます幸せになってほしいと思います☆

  4. おお…似てます、私達の状況と><

    日本、仕事に関しては本当に厳しいですよね…
    という事でフランスに戻ることにしたんですよ。

    正直あんまりフランスにいいイメージ持ってないんで乗り気じゃないんですけど、日本に居ても旦那の仕事ないわその日暮らしで散々なので、向こうで心機一転、頑張ります!

    引越し先がパリじゃないことだけが励みですね…

    • oiseauxさん、はじめまして♪ 

      私もフランスにあまり良いイメージを持っていませんでした。何というか、“気取った国”のようなイメージがありました。でも、住めば都ですよ。日本と同じようにいい所もあれば悪いところもあるってな感じで。
      最初のうちは大変でしょうが、頑張って下さい。応援してます。

  5. 突然ですがコメさせていただきます^^
    私たちもリリーさんと同じような境遇で今、フランスにいます。
    地震が起きたことが、きっかけではありましたが
    将来を考えた結果、フランスに来ることを決めました。
    ブログを読んでいるとまるで私たち夫婦のような感じがします笑
    でも、今なかなかアパートを借りられなく(家賃の3倍の給料がないと・・と言われ)・・・
    彼の母と3人の同居生活が5ヶ月目に突入していて、かなり鬱になっているときに
    これを見て、涙が出てしまいました。
    少しだけ、勇気が出ました。ありがとう、リリーさん!

    • ぷりんさん、はじめまして。

      とても嬉しいコメントありがとうございます。時間が流れるにつれ、最初の気持ちを忘れてしまったりもしますが、「フランスに行こう」と思った時の気持ちはいつまでも大切にしなくちゃなぁと思います。慣れない環境で、大変なこともあるかと思いますが、一緒に頑張りましょうね!

      また遊びに来てください。

  6. 彼が洋菓子店で働きながら鬱になっていった、というケース、よくわかります。これを「頑張りなさい」一言で片付けてしまう石の上にも三年をしなくて良かったですね。

    私たちも日本在住だった頃、旦那が意に反してカルチャーセンターの英語講師をして、3歳児のクラスを持ったら落ち込んで帰って来ました。

    辞める前に当時は異常に高かったコンピューターを買い与えるという手で(1991年で100万円しました)コミュニケーションの手を確保し、生き延びました。またおかげでコンピューター関係の仕事にも就けて人生が変わりました。

    お金は乳児二人を預ける保育所のあるゴルフ場で私がキャディーをして貯めました。女は強いもので家族を守るためにはどんな仕事でも恥ずかしくなくできます。

    二人で苦労すると後の幸せ度が上がりますね。

  7. こんにちは。突然のコメント失礼します。

    私の主人はイギリス人で、今、私の息子の養子縁組の手続きをしているところです。
    養子縁組の件で調べていたら、ふとこちらのページに辿り着きました。

    リリーさんの、ご主人にとって最高の人生だったと思ってもらうことが夢だという言葉に心を打たれました。素晴らしい最高の愛の表現ですね。

    私は主人に本当に私にとってこれ以上無いほど幸せをもらっていると思いますが、リリーさんの言葉にハッと気付かされました。
    私も主人にそう思ってもらえるように、主人をたくさん幸せにしてあげたいと思います。

    ありがとうございました。

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