筆者はフランス生活6年目の海外在住者である。これまで海外生活での孤独やストレスの対処法に関する記事をいくつか書いてきたが、これらの記事では、慣れない外国でどのように適応していくかをテーマにした。日本人とは違う外国人社会のなかでどのような時に孤独に感じるか、そしてどのように対処していくべきかに記事の中で触れた。

しかし、実際には、海外在住者が感じる”孤独感”は2種類あるように思う。

1つは先に挙げた「海外で感じる孤独」。そして、もう1つは「日本で感じる孤独」である。海外で感じる孤独とは現地の言葉や習慣になじめず、一人ぼっちに感じてしまう孤独。日本で感じる孤独とは、海外生活に適応したがゆえの母国で感じてしまう孤独である。

海外で生活することになったとき、ほとんどの人が前者の孤独については考えるが、後者の孤独については考えない。しかし、後者の孤独のほうがより長期的で、じわじわとやってくる孤独感であるように思う。

最初はホームシックで「日本に帰りたい」と思うことがあっても、うまく適応する努力をすれば、そのうち海外にも慣れてくる。自分でも気が付かないうちに現地人化し、考え方や習慣も少しずつ現地人のようになっていく。毎日見るもの、食べるもの、行動などが変われば、日本で生活する日本人とは少しずつ考え方がズレていってしまうのは、当然で避けられない。だから、海外在住者は国籍が日本人、中身も日本人なのに、感覚だけがどこか外国人になってしまう。

例えば、日本へ一時帰国したとき。テキパキと元気よく働くスーパーの店員に感動し、コンビニの便利さと品揃えに興奮する。レストランの喫煙席にショックを受け、道路を渡るときは「左→右」で確認する。外見ではそこらへんを歩く日本人の一人だが、本人の頭の中では外国人観光客さながらの感動や驚きがあるわけだ。

要するに、自分でも気が付かないうちに”あっちの人”になってしまうのが、海外在住者の行く末である。しかし、完全に”あっちの人”にもなりきれないというのが、海外在住者の辛いところ。海外在住者は自分の住んでいる国(海外)でも”あっちの人”として扱われるのだ。

筆者はこの先何十年フランスに住もうと、フランス人にはなれない(なろうとも思わないが)。フランス人に「日本ではどうなの?」と質問されることはあっても、フランス人として接されることはない。

海外在住者とは、どちらの国にも片足ずつ浸かっているような状態だ。日本にいる時はフランスの話をし、フランスにいる時は日本の話をする。日本のニュースも、フランスのニュースもどちらもチェックする。日本に帰って「ただいま」と言い、フランスに帰っても「ただいま」と言う。日本に帰れば「やっぱり日本は良い!」と思い、フランスに帰れば「やっぱりフランスは良い!」と思う。

海外で生きるとはつまり、母国が2つになるということ。100%日本人、100%フランス人にはなれないが、どちらのコミュニティにも属せ、どちらの国にも愛着を持てる。どちらでも”外側の人”であるが、どちらでも”内側の人”である。

これが海外生活の孤独であり、同時に幸せだと思う。

今、海外生活に適応できずに悩んでいる人がいたら、少し視点を変えて現実をみてほしい。海外生活適応期は、母国を日本以外にもう1つ増やしている期間。 2つの国を「観光客」としてではなく、「地元の人」として味わえるようになるまでの時間だ。

フランスにいればワイン片手に地元の人のようにゆっくりした食事を楽しめ、あいさつのキスであたたかい気持ちになる。日本に帰れば、こたつに入って焼酎片手にみんなで鍋をつつき、「お疲れ様」の言葉に癒される。

愛する国が2つある。2つの国を「感じる」ことができる。これが、海外在住者の醍醐味だ。

 

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