愛媛県八幡浜市のアパートで乳児5人の遺体が相次いで見つかった事件。
この事件を聞いて、「最近子どもの虐待や遺棄の事件が増えた」と感じた人も多いだろう。それもそのはずだ。
厚生労働省の調査によると、児童虐待の通報件数は毎年増え続けており、年間約100人の子どもたちが虐待によって命を落としている。
これは、約3.6日1人が虐待によって亡くなっているという計算になるのだ。

増える虐待、世界一児童虐待が多いアメリカから学べる防止策は?どうしてここまで日本の幼児・児童虐待の問題は大きくなってしまったのだろうか。これを今後、防止していくにはどうしたらいいのだろうか。

そこで今回は、先進国のなかで最も子どもの虐待が多い「虐待先進国アメリカ」の現状と対策から、日本が学べるものがあるのかを検証してみる。

 

アメリカの幼児・児童虐待の現状

米国の「被虐待児童数」は2000年のデータで約88万人。ユニセフによる調査によると、ここ10年間で家族による虐待が原因で亡くなったとみられる子供の数は2万人以上である。これは、イラクとアフガニスタンで亡くなったアメリカ軍兵士の数の約4倍の数字であり、先進国のなかで圧倒的に高い数字だ。
アメリカでは暴力などの身体的虐待やネグレクトが原因で亡くなる子供が1週間に15人もいる。ユニセフによると、アメリカの子供10万人あたりの死亡者数は2.4人であり、フランスの1.4人、日本の1人、イギリスの0.9人と比較しても突出している。
アメリカでの子供の虐待に関する大まかな統計は以下の通りである。

  • 10秒に1人の割合で、子供が虐待されたり、レイプされている。
  • 2010年には、330万人が被虐待児童として報告された。
  • 報告されている被虐待児童の数は実際の半分である=年間虐待児童数は数百万人に上る計算。
  • 児童保護サービスへの報告数は、1週間で6万1千件=1分間に6人の計算。
  • 家出をする子供150万人のうち85%が「何らかの虐待からの逃亡」が原因である。
  • 虐待被害者は、男児が48%、女児が52%
  • どの人種も、どの宗教でも子供の虐待は見られる

これを受け、アメリカでは国を挙げて児童虐待の防止策に講じている。よく在米日本人が、「アメリカでは親子で10歳の娘とお風呂に入ったら逮捕される」とか、「乳児の蒙古斑を虐待の痕だと勘違いされて通報される」とか、「父親が人前で娘にげんこつで叱って留置所に2週間入れられた」と言うが、アメリカではそれだけ国民が“児童虐待”に目を光らせているという証だろう。

現実に、医師や教師、警察官、聖職者ら子供と日常的にかかわる職業の専門家には罰則つきの通報義務があり、妊娠中と生後2年間は看護師が定期的に子どもを訪問するなど、外部機関のチェックに余念がない。

 

実際に児童虐待を食い止める効果はあるのか?

National Incidence Study of Child Abuse and Neglect number of neglect
抜粋: National Incidence Study of Child Abuse and Neglect number of neglect

“National Incidence Study of Child Abuse and Neglect”によると、2005年~2006年にかけては55万3千人の子供が身体的、精神的、性的虐待を受けていると報告された。これは1993年、被虐待児童が74万3200人の頃から26%減少している。1993年から2005年の間には性的虐待が38%減少し、身体的虐待は15%減、精神的虐待は27%減だった。

と、ここまで読めば、米国中の親子監視システムはうまくいったと言えなくもないが、問題はネグレクトだ。同様の報告書によると、1993年のネグレクト被害子供数は87万9千人であり、2005年は77万1700人と増加はしていないもののほぼ横ばい状態であり、外部からは発見されにくいネグレクトの実態が明らかとなった。

 

なぜネグレクトは防止できないのか?

子供を物凄い剣幕で叩いたり蹴ったりしている親を見つければ、通報する。これは誰にだってできる虐待防止策だ。子供に暴力をふるったり、直接危害を加えるような“積極的”な虐待は周囲の人でも発見できる。しかし、子供に食事を与えない、通学させないなどのネグレクトは社会との接点がなく、閉鎖された家庭内という空間で行われることなので、いくら行政や民間で努力したところで直接の防止策とはならない。

むしろ、国としてやっていかなくてはいけない防止策は、もっと根本的な部分ではないだろうか。
これは世界的に言われていることだが、虐待の原因の多くは「貧困」と「孤立」である。アメリカでは健康保険制度が充実していないのに加え、ティーンエージャーの望まない妊娠が社会問題となり、犯罪率、貧困率共に先進国のなかでも高いほうだが、これが児童虐待の一番の原因であるという見方が強い。

日本でも、母子家庭の貧困率は66%と突出しており、フィンランド国立健康福祉研究所は「母親が支援なく放置されると、子どもを虐待することがある」と危惧している。「母子家庭は虐待をする」と安易に結びつけるのは間違っているが、閉鎖的な家庭のなかで育児の重荷をわかち負うこともできず、働けど働けど生活は一向に楽にならない「金銭的にも精神的にも苦しい母親」がネグレクトに走るという構図はわからなくもない。まずは、こういった母親がいるということ事態が問題なのではなかろうか。

要するに、対策として虐待されている子を発見するのでは、すでに遅いのである。大切なのは、我が子に虐待をしてしまうような「余裕のない親たち」を産まない社会づくりではないだろうか。

 

「虐待された子」は将来どうなってしまうのか

ここに悲しい現実がある。子どものころに虐待を受けて育つと、大人になった後もずっと心に深い傷を負って生きることになるのだ。

虐待の心の治療を受けないまま大人になった場合の影響;

  • 暴力事件で逮捕される確立が38%上がる
  • 刑務所に入れられた囚人の84%が児童虐待の経験者
  • 少年事件で逮捕される確立が59%上がる
  • 成人事件で逮捕される確立が28%上が
  • 暴力事件を起こす可能性が30%多い
  • 65%以上の被虐待者はドラッグ更生施設に入れられる
  • セーフセックス(性感染症のリスクを減少させる行動をとりながらする性交)を行う確立が25%減少する
  • 82%は自らもペドファイルになり、児童への性的虐待をする
  • 80%は何らかの精神疾患病の基準に当てはまる
  • 慢性疾患病のような長期的な影響は心の傷が放置されることが原因である

先進国で最も児童虐待が多い国アメリカ、日本が学べる防止策はあるのか

これは昔から言われてきたことだが、虐待は連鎖する
虐待を受けた子供の70%は、自分が親になったときに、子どもに虐待してしまうのだ。

最近虐待が増えたといわれているが、現在ニュースで報道されているような「虐待親」も元をたどれば、子供時代に虐待されて育った人である可能性は高い。だから、児童虐待は「最近増えた」のではなく、本当はもっと昔から増え続けているのかもしれない。

だとすれば、虐待の不の連鎖は一刻も早く断ち切るべきではないだろうか。

日本は平和な国だといわれてきたが、これからはアメリカのように地域社会全体で親の子育てに目を光らせるような社会にならないといけない時代になってしまったのかもしれない。そうするとさらに息苦しい社会になりそうだが、そこまでしないと救えない命もある。長期的に考えて「平和な日本」を維持したいのなら、1件でも多くの虐待を減らしていくしかないのではないだろうか。

子どもを救え、そして、親を救え。

参照資料:(1)(2)(3)(4)

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2 コメント

  1. 残念ですが、消極的なお役所に丸投げしているようでは、永遠に解決は出来ません。
    いじめにも通じるのですが、警察とかが強制的に親から子供を救い出すくらいの対処をしなければ無理なのです。

  2. 児童相談所への相談件数のグラフを見て驚きました。2013年では1990年と比べて70倍になっているんですか?虐待自体が増加したのか、相談によってそれが発覚することが増加したのか、虐待の定義が変わったのか等で話は変わってくるのではないかと思いました。70倍はちょっと信じがたいですね。昔ながらの頑固おやじがちょっと子供の頭をゴツンとやったのも今では虐待とみなされるのでしょうか?