過労死する考え方「好きなことを仕事にすれば苦痛にならない」
写真:Flicker -Patrick Makhoul

2016年10月7日、三田労働基準監督署は元電通社員 高橋まつりさん(享年24歳)の自殺について、これを過労死と認定した。彼女はSNSを通して、何度も「仕事が辛い」、「死んでしまいたい」と、その苦悩を打ち明けている。なぜ彼女のように、自ら命を絶つまで、精神的に追い込まれてしまう人が後を絶たないのだろうか。

それは、よく自己啓発本などに書いてある、「好きなこと&やりたいことを仕事にしていれば楽しくて、苦にならない」という理想論の押しつけにあるのではないかと思う。

ある心理カウンセラーはこんな風に言っていた。

「フランス人は、どうやら年に有給休暇が5週間あるそうなんですよね。で、フランスでは1カ月のバカンスのために11カ月働く、と考えているらしいんですよ。つまり、仕事っていうのは辛く苦しいもので、休暇のために全てをやっているという考え方なんです。

こういう話を聴いたら、日本人のみんなは羨ましいと思うだろうし、僕も以前はそう思っていたんですけど、でも今の僕は、長期休暇をとるよりも仕事している方が楽しい。僕は講演会やブログを書いている方が楽しいし、そんなに長期の休暇にこだわらなくてもいいと思うようになった。」

この話を聞いて、同意見だという人もいるだろう。嫌な仕事を一生続けるくらいなら、誰だって楽しい仕事がしたい。そのためには、自分の好きなことを仕事にしよう!というのもわかる。

しかし、この論調が怖いのは、「仕事に苦痛を感じる人がダメ」、「仕事が楽しくないのは能力が低いから」というように、自分を責めて精神的に追い込んでいくような論調に結び付いてしまう点である。

好きでやっている仕事、自分でやると決めた仕事なのに、楽しくない。辛い。
こんな風に思う自分がダメなんだ、こんな自分には生きている意味はない、死にたい…。

こんな考え方が、真面目で、意識高い系の優秀な人を過労死へと追い込む

好きなことを仕事にしていれば、楽しくて苦痛を感じないなんて、嘘だ。そんな人間もいるかもしれないが、それはごくわずかなラッキーな人に限られているだろうし、みんながみんな自発的に「休みよりも仕事を優先させたい」と思うようにならなくて、当然だと思う。

仕事はお金を稼ぐためだと割り切って、日々のやらなくてはいけない業務をこなす。仕事が楽しいと感じていなくても、こんな生き方をする大人を、筆者は立派だと思う。

仕事が楽しいと思う瞬間もたまにはあるが、ほとんどが面倒だったり、つまらない業務だ。仕事とは、「楽しいことばかりではない」というのが大半の人の感覚ではないだろうか。それを、自己啓発のためだとか、好きなことを仕事にしているのだから休みなしでもいいとか、そんな理想論を押しつけるのには無理がある。もっといえば、景気が良かったバブル期までで終わりにすべきだった古い考え方だと思う。

しかし、それなら仕事が辛かったらすぐに辞めてもいいかというと、そういうわけでもない。近年、入社3年以内に会社を辞める新入社員が3割になったと言われている。こんなに早く仕事を辞めてしまってはスキルは何一つ身につかないし、長年続けてみて初めて経験できる「仕事の面白さ」だってあるだろう。

それに、仕事以外の時間に、キャリアアップのために勉強することも大切だと思う。休みの日にまで、仕事のための勉強をしようと思えるモチベーションを持つためには、やはり大前提として「好きなことを仕事にする」ほうがいい。

しかし、好きなことだから苦にならない、好きな仕事だから休みがなくてもいいというのは間違っている。そんな人もいるが、そうではない人もいる。

仕事に対する考え方、価値観の多様性を社会が認めていかない限り、いつまでたっても過労死はなくならないだろう。

好きなこと、やりたいことが仕事。仕事をしているのが楽しい。休みがなくても構わない。

そんな考え方も良し。

仕事はお金を稼ぐための手段。家族を養うため、海外旅行に行くため、趣味に使えるお金を貯めるために働く。

そんな価値観も大いにありだ。

仕事が好きじゃなくたっていい。仕事が楽しくなくたっていい。お金のために割り切って仕事したっていい。

仕事に対する考え方は人それぞれ。

あなたは、仕事の考え方を人に押し付けていませんか?

シェア


返事を書く

 

※ コメントは承認制です
コメント反映までに時間がかかることがあります。予めご了承ください。

6 コメント

  1. こんにちは。この話から感じたのですが、日本社会にはあらゆる面で偽善と嘘が蔓延していると思う。『楽しんで仕事している』と自慢げに言う人には、『本当ですか?』『365日強制的にやらなければならないとしても、苦痛に感じないのですか?』と問い詰めてやりたい。
    心理学者がもっと必要。

  2. リリーさん初めまして^_^
    最近リリーさんのブログを知り、いつも楽しみにしています^_^

    まさしく、私、今日、このタイトルのこと考えていてビックリしました!

    最近、仕事に対してモチベーションが上がらないこと。仕事の業務や会社の人など。
    2年前にブラック企業に勤めていて残業が多すぎて嫌になったんだと思います。(当時、1ヶ月残業だけで200時間超えてたんです。)
    ある日、友達の1人が。私仕事嫌いなんだ。旅行が好きだから、私はそのために働いてるの!って聞いて、あ、仕事嫌いって言っていいんだって目からウロコで、その時、凄く気が楽になったんです。
    ブラック企業を辞めてから、良く本屋さんに売ってる、何歳までにやるべきこと、とか、恋愛やら色んなハウツー本を捨ててから、楽になったんです。

    改めて、今日の記事読んで、なんか楽になりました。

    • そんな風に仰っていただけて嬉しいです。
      >1ヶ月残業だけで200時間
      きょえぇぇwww。恐るべしブラック企業。過労死する前に辞めて良かったですね。そのお友達にも感謝です。

  3. 当時、その仕事は私がやりたかった職業でしたが、あまりにも残業が多すぎて、その当時振り返ると、眠い!疲れた、私も遊びたい!!でした 笑
    私の人生仕事だけで終わってしまう!って、全然幸せじゃなかったです。
    好きな仕事なら休みなんていらない、なんて綺麗事じゃー!!って本気で思ってました。

  4. こんばんは。ドイツ在住ですが、こちらは日本に比較して自己啓発本が少ないですね。学歴によって就ける職業や上がることのできる職位のおおよその範囲が決まっているようなので、そもそも自己啓発なんてしようと思わないのかもしれません。その点では日本の方が制度的に柔軟性があって良いとは思っています。

    好きなことを仕事にするという点について、私の場合は好きなことを仕事にできなかった(というかそもそも好きなことがなかった)というパターンです。

    理系の大学院まで行って専攻していた分野で就職できず、ある意味当時の残り物的な分野で就職しました。専攻分野は特に好きというわけではなく、就職に有利そうだからという打算でした。そして就職した分野は未経験だったので全然内容が分からず、新卒の社内研修の課題でもほぼ毎回ビリで嫌で嫌でしょうがなかったですが、奨学金という名のローンを返さなければならなかったので辞めずに働きました。不思議なものでそんな分野で就職した自分なのに、優しい人たちに恵まれて気が付いたらドイツに駐在で来ていました。駐在初期もその分野は好きではなかったですが、最近になってようやく好きになりかけています。私が仕事としてやっている分野は、家族と自分を守ってくれるありがたい存在であると異国の地で気付いたからです。(ただこれは終身雇用要素の強い日本企業所属だからかもしれません。)

    「仕事に苦痛を感じる人がダメ」、「仕事が楽しくないのは能力が低いから」という言葉に自分も散々苦しめられましたが、これらは「そもそも好きな仕事を選べなかったお前が悪い」という論に行き着きます。いわゆる自己責任論で自分を苦しめることになるだけです。ドイツに来てからというもの、私はいつからか仕事に楽しさを求めないようになりました。周りと自分を比較することも止めて、日本で買った多くの自己啓発本にもさよならしました。すると仕事に対する気持ちが楽になりました。自己啓発は結局自己実現を目指すものですが、私には自己実現を動機として仕事をすることは無理でした。そして結局は大事な人たちのため(特に家族のため)にならば私は働けると気が付きました。

    「好きなこと&やりたいことを仕事にしていれば楽しくて、苦にならない」で仕事ができる人はそれで良いですが、特に好きでもなかったりやりたいこともなかったりする人は、その人なりの納得できる自然な動機が見つかるまで低空飛行で良いので仕事を続けてみると答えが得られるかもしれないと思います。また身も蓋もない話ではありますが、運の要素も強いと思います。

  5. こんにちわ、フランス留学のモチベーションとしてこちらのブログをいつも拝見しております。

    実は、この間までこの心理学者の大ファンでした。
    こちらの記事に書かれている内容を、彼のpodcastで聴いたときに、一気に熱が冷めてしまいました。

    同じ意見の方がいらして、安心しました。
    この記事に出会う前は、なんて自分は怠けものでだめな人間なんだーと思っておりましたから。

    これからも、更新楽しみにしています。