負け犬の遠吠え

2003年発表されたベストセラーエッセイ「負け犬の遠吠え」では、「30代以上、未婚、未出産」の女性を自虐的に「負け犬」と定義し、「勝ち犬」の恋愛を、結婚して妻の座を獲得するための一種の就職活動としていた。


 

2005年、「ANEGO]と呼ばれているひとりの30代の女性が抱える悩みや不安、恋愛模様をリアルに描いたドラマ「anego」が、ザテレビジョンドラマアカデミー賞で作品賞受賞。

 

2007年、結婚に必要な活動のことを就職活動(就活)に見立て、社会学者山田昌弘が考案した「婚活」という新しい言葉が週刊誌AERAに載り、瞬く間に世に広がる。

 

・・・とまぁ、日本では何というか「必ず結婚しなければならない」ような風潮がある。特に女性は、結婚・子育てこそ女の幸せとする価値観が根強く、「結婚しない=負け組」といった世間の固定観念に悩まされ、ストレスを感じる人も多い。

 

私が大学4年の就職活動の頃、ある友人はこんなようなことを言っていた。

「私は良い会社には入りたいけど、一般職で良い。絶対に仕事になんてのめりこまない。就職なんて結婚相手を見つけるためにすることでしょ?1年以内に将来の旦那様候補を探して、2年ぐらいの交際を経て、3年以内にはプロポーズさせてみせる!負け犬になるのだけは嫌だもん。」と。

当時、結婚なんてまだまだ先の話だと思っていた私は彼女の「計算」の緻密さに圧倒されてしまった。

しかしその後、22歳で「これだっ!」と思う人に出会い、結婚。24歳の現在は、慎ましくも幸せな結婚生活を送っている。今はまだぜいたくができるほどの余裕のある生活ではないけれど、彼だけの収入で生活している専業主婦である。

つまり、「負け犬の遠吠え」によれば、私もおそらく「勝ち犬」にカテゴライズされるわけだ。

しかし、ここフランスではその「勝ち犬」の恩恵を全く受けることがない。むしろその逆である。私のような「勝ち犬」は、フランスでは「負け犬」なのかもしれない。専業主婦で何が悪い?

一番それを強く感じるのは、フランス人たちが私にこういった質問をしてくる時である。

「奥さんは、いつも何しているの?」


「あなたは仕事何してるの?」

「じゃ、あなたはこの先ずっと家事がしたいの?」

私が仕事をしている、または仕事を探していることを前提とした質問である。事実、フランスには専業主婦があまりいない。「女性は家庭を守るものだ」といった旧世代打倒のための「5月革命」の記憶が未だに新しいためか、フランスでは専業主婦の居場所がない。女性が家庭の外に出る自由をせっかく手に入れたのになぜ家庭に納まろうとするのか?これがフランス人には理解できないポイントらしい。

そこで、主婦も仕事をして当然だと考えるフランス人に、日本での婚活ブームや多くの日本人女性が専業主婦になることを望んでいること、現実問題として日本社会では仕事と家庭を両立させることが難しい点、それによりキャリア派と専業主婦の2極化が進むことなどを説明してみる。

これら全てを説明し終わってやっと、「あー、そうか」といった理解できたのかどうかもよくわからないような反応が返ってくる。

フランス人女性にとって、結婚は幸せではない。結婚が女の幸せだという人のことを、自立心がなく男に頼るしかない冴えない女だと思っている人も多いようだ。結婚するも、仕事をするも女性の自由であり、自由に多様な選択ができることを誇りとしているのである。

フランス人がよく使う、この「自由」という言葉だが、フランスではどんな人に対しても成人していれば仕事を強制する空気があり(これについては後日言及する)、それだから主婦も仕事をして当然だと考える人が多い。だから、フランスで専業主婦をしている私にしてみればちっとも「自由」ではない。なぜなら、専業主婦になるというのは最初から選択肢にない・・・それが大半のフランス人の感覚だからである。

婚活?

つまり言い換えるなら、結婚が女の幸せだと世間から押し付けられる女性も、私のようなフランスで専業主婦をしながら所在のなさを感じる女性も、一歩外に出て別の社会に入ってみればそんな悩みなんて消えてしまうものなのである。結婚しない女性、働かない女性が世間からどうこう言われたところで、大した問題じゃない。結局のところ、自分のことを自分でどう思っているか?自分に満足できるか?が大切だと私は思う。

大人の女性に「あなたのようなコムスメに女の人生の何が分かる?」なんて説教されたら返す言葉がないが、コムスメだからこそ思うのは「十人十色でいいじゃないか?」ということ。もういい加減、前の世代がどうだとか、女はこうあるべき!だとか、社会の決め付けや洗脳によって女性たちを踊らすのは終わりにしないか。

それに先に挙げた私の大学時代の友人のような、負け犬への危惧感から「計算結婚」をしようとする若者がこれから増えるとすれば、日本は愛のない、味気ない国になってしまうのではないか。結婚しない女が幸せで、本人が自分に満足してるならそれでいいのではないか。専業主婦が「自由」を感じ、幸せに暮らして何が悪い?少なくとも周りがとやかく言うことではないだろう。


6 コメント

  1. はじめまして!
    いつもマダム リリーさんのブログを楽しみにしています。

    っていうのもわたしもフランス人の旦那と学生結婚したので状況が似ているので勝手に読みながら親しみを感じていました。笑
    今回のトピックは私も凄ーくヒシヒシと感じていた事なので思わずコメントしました。
    今の私のコンプレックスにもなっています。

    結婚しても勉強を続けていたんですが今は子供が出来て出産を終えて子育てに追われる日々です。

    彼の母もいまでも現役で働いてるし、周りに専業主婦はいません。

    勉強の方も中途半端で終わってしまったのでフランスに住むとなると仕事見つけるのも大変だし肩身の狭い思いしそうです。

    まあ、気にしててもどうしようもないですけどねー!

    • Annさん、はじめまして♪
      コメントありがとうございます。

      子どもが小さいんじゃ自分の時間が持てなかったりしていろいろ大変ですよね。でも、そんななかでも「勉強が中途半端に終わってしまった」と思っているAnnさんは頑張り屋さんなんですね。
      私も頑張らなくちゃ!と、思いました。

      参考までに、私が「普段何してるの?」と聞かれた時の対処法をお教えします。
      何も知らなかった最初の頃は「主婦よ!」なんて言っていましたが、今では(家族や旦那の親友以外に対しては)「自宅で翻訳の仕事をたまに引き受けてる」だとか、「最近ネットショップを開設した」だとか、「日本で働いていた会社からたまにちょっとした仕事の依頼を受けてやってる」だとか、「フランスの日本人学校で子どもたちに漢字を教えている」だとか、嘘八百並べてます!(笑)まぁ、何かフランス人って「言ったもん勝ち!」みたいなところもありますから。

      それにフランス人にとっては「女が家庭におさまってる」というのが問題であって、「キャリアを築けるか?」とか「その仕事で食ってけるか?」なんてことはどうでもいいようです。
      さすがに姑から「何で働かないの?若いのに!」と言われたときは面食らいましたが、それ以外では問題ないですよー。

  2. いやー、まさしく。
    結婚=女の幸せ、も
    専業主婦=つまらない女、も嫌な風潮や。
    本人が選択して、満足しとる結果なら
    他人がどうこう言う事やないと思うなー。
    「それ」が本人にとって幸せな道なら、別にいいよね。
    人殺しとるんやないんやし。
    フランスでは違うかもしれんけど
    日本では現状に満足してない人に限って、
    違う立場の人を貶すイメージ。
    しかし大学時代の友人、すごいね。
    ドラマの世界の話みたい。
    そういう人、一回実際にお話してみたいなw

    • まぁ、世の中いろんな価値観をもって生きている人がいるわけだし、社会が勝ち負けを決めること自体が馬鹿馬鹿しい・・・。

      あたしのこの友人は何事においても計算高くしたたかな女やったね。
      ちなみに、「なんで3年以内にプロポーズ?」と聞いてみたら、
      「自分の2~3つ上の人と結婚したいから、その人が30手前までに家庭をつくろうと考えるだろうから・・・世の中のできる男の大半は30までに家庭を持つ!」
      って言ってた。ま、人それぞれだけどね。

  3. その友人ってスゴイ!
    ある意味尊敬します。
    今はどうしてるんでしょうね。

    よっぽど、フランスのこれまでの主婦って「冴えない、つまらない、地味な、女」だったんですね。
    あかぬけて、素敵になって、その先入観をぶっこわしてやりましょう!

    私は以前、「私は馬車馬(あるいはドンキー)のようになる気はない。」と言っていて、ヒンシュクをかっていました。

    っていうか、男も問題です。
    女の収入をアテにするなんて、「お前はヒモか」と言いたくなります。
    女はもともと、体力が男ほどないうえに、毎月の生理、出産、授乳などげっそり疲れることが多いのです。
    明日仕事があるのに、毎晩夜中の1時過ぎまで飲み歩いてても平気な男とはぜんぜん違うのですから。
    それなのに、1日8時間労働で男と同じなんて、不公平なんですよ。
    それなのに、欧米の女は「男女平等」とかわけのわからない口車に乗せられて、馬車馬のように働いて、疲れて、その間に男はまだ体力が余ってますから、浮気のひとつもしたりして。

    疲れと苦労は女を老けさせます。
    男はもともと毎日外に出たいわけだし(犬のように)、女は男ほどではない(猫のように)。
    メインで常に働くのは「男」、「女」はそれぞれの体力とか、家庭状況、経済状況で、いろいろあっていいと思います。

  4. 日本の「どうして結婚しないの?」がフランスでは「どうして働かないの?」になるのですね。
    フランス人は個人主義で他人の人生設計に干渉しないという印象がありましたが、そうではないと。
    どこも少数派の立場は難しいものですね。

    でもさすがに日本のように「お子さんは? ダメよ早く産まないと!!」はないと思いますが(笑)

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