日本では子どもの虐待死が社会問題の1つとして挙げられるが、フランスでもまた子どもが被害者となる悲しい事件が起きた。しかし、この事件は一風変わっている。

生まれて間もないわが子を3人殺害したベロニク・クルジョルトは、すでに2児の母であった。彼女は教養があり、愛する夫は“優しくて心の広い”男性。そんな夫や親せき、友人にも妊娠を気づかれることなく、たった一人で出産したという。その後、生まれて間もなく窒息死させている。これを3回繰り返したそうだ。1人目は暖炉で燃やし、残りの2人は冷凍庫に放置した。殺害後もベロニクは死体のそばで平然と暮らしていたという。


残忍な連続殺人事件であるが、不可解な点がいくつもある。例えば、彼女はどのようにして妊娠を周りの人に隠すことができたか?という点だ。

 

彼女の顧問弁護士であるメ・ヘンリ・ルクレルクはこのように説明している。

「ベロニクは精神的に病んでいて行った犯行であると言えます。この悲しい事件により、“妊娠拒絶症”という病気が広く世に知られるようになれば、と望んでおります。」

この事件をきっかけに、今フランスでは“妊娠拒絶症”をどのように捉えるべきかという点で物議を醸しているのだ。それでは、日本でもまだあまり例をみない“妊娠拒絶症”とは一体どのような病気なのだろうか?

フランス国立衛生医学研究所(I.N.S.E.R.M.)で所長を務め、自らも精神科医であるモニク・ビロウスキはこのように分析する。


「拒絶症とは精神分裂症に最も多くみられる精神運動障害の1つです。妊娠拒絶症とは自分が妊娠していることに出産するまで気が付かず、また出産後も母親になることを拒絶し続ける症状です。患者はある日突然、自分のなかから物体が出てきたということしか認識できません。

しかし、これはとても稀なケースで、実際にありがちなのは一時的な無感情・無感動を抱える人でしょうか。彼女たちは赤ちゃんが生まれる兆候を何か月も無視します。妊娠と言っても体は動くわけですし、こういった症状を抱えた妊婦さんは体重が2~3キロほどしか増えないので、周りにも気づかれにくいわけです。」

 

18世紀以降の物質中心主義の時代がこのような犯罪を生み出し、今日では精神病患者が悲惨な事件に結び付いた。

そう説明するのはフランス立法裁判所の元裁判官で、現在の司法官であるジャン=ピエール・ジェティ氏である。

「このような訴訟では、公判中の被告人の態度やおかしな言動というのは一般的に被告人の性格・特徴としてもみ消され、刑は軽くなる場合が多いです。もちろん大人を3人殺した場合はもっと重い刑になりますが、彼女の場合は執行猶予つきの5年間の実刑程度になるでしょう。」

 

しかしながら、専門家たちはベロニク自身が死なせてしまった子どもがいることを認識し、しっかりと反省することが必要だとしている。

妊娠拒絶症という言葉がまだ世の中に知れ渡っていないおかげで、ベロニクは重い刑を免れることができたということか。いずれにせよ、今後このような悲惨な事件がこれ以上起きないことを心から望む。


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