バイリンガル教育|「国際結婚の赤ちゃんは言葉が遅くなる」は本当なのか?
写真:Flicker - ThomasLife

国際結婚で生まれた赤ちゃんは、言葉の発達が遅れる…とよく言われます。1言語(モノリンガル)の家庭よりも言葉を話し始めるのが遅く、原因がわからずに困惑する親は多いです。

一般通念としては、子どもたちが混乱してしまうために話し始めるのが遅くなるという考え方があります。しかし、これは実際には間違っているとする専門家も少なくありません。そこで今回は、海外のマルチリンガル教育をテーマにしたサイトより、国際結婚ママの体験談を紹介します。あなたはこれを読んで、「国際結婚の赤ちゃんは言葉が遅くなる」と思いますか?


 

バイリンガル教育は言葉の発達の遅れにつながるのか?

バイリンガル教育|「国際結婚の赤ちゃんは言葉が遅くなる」は本当なのか?
筆者のCorey Hellerさん

息子が生まれ、私たち夫婦が英語とドイツ語の両方で話すバイリンガル子育てをすることに決めた時、周りからは「言葉の発達が遅れるわよ」としばしば注意されました。「バイリンガル環境は、最初は子どもを混乱させるけど、そのうち話せるようになるから大丈夫。言葉を話し始めるのが遅れても心配しなくていいのよ。」と、周りの人によく言われました。多くの人が「そういうものだから」と言い、バイリンガルの赤ちゃんは言葉が遅れて当たり前だと考えているようでした。

1999年のAmerican Academy of Family Physiciansには、このような引用があります(私の息子は2001年生まれ)。

バイリンガル環境の家庭は、子どもの言葉の発達を2言語とも遅らせる一時的な要因になり得る。バイリンガルの子どもの2言語理解力は、モノリンガルの子どもと変わらない。しかし、バイリンガルの子が両方の言語が堪能になれるのは、5歳頃である。

このアドバイスを、8年前の私は真剣に受け止めました。両親や親せきに、「息子はバイリンガル環境で育つからすぐに話せるようになると期待しないでね」と事前に忠告しておいたほどです。

「ええ、そうよ。この子は言葉の発達が最初は少し遅れるけど、いつかは普通に話せるようになるから、心配していないわ。」

バイリンガル教育をするという選択を弁護するために、これを強く信じていました。しかし、本当は、少し心配でした。「バイリンガル教育と言葉の遅れ」が話題になった日には、お腹が痛くなって家にすっ飛んで帰るくらいでした。私たちの教育が間違っていたらどうしよう…?と何度も不安になりました。

そんな頃、幸運にも、子どものバイリンガル教育の研究者であるColin Baker氏を偶然知りました。彼の研究が、私をどれだけ安心させてくれたでしょう。彼の2000年に刊行された著書、『 The Care and Education of Young Bilinguals: An Introduction for Professionals』にはこう書かれています。

バイリンガル教育で子どもを育てると、子どもの言葉が遅れると信じられていますが、現実にはそれとは真逆の結果が出ています。バイリンガルで育てたとしても、子どもの言葉の遅延や混乱を引き起こしたり、もしくは減らすようなことはありません。

こう書かれていたものの、やはり当時の私は半信半疑でした。しかし、同じようにバイリンガル教育をしていた友人の娘が早い時期から話すようになり、Colin Baker氏の研究をより信じるようになっていったのです。友人のバイリンガルの子は言葉が遅れなかっただけでなく、他の子よりも発達が早かったのです!

その後すぐ、ヒスパニックの友人と話をする機会があったのですが、彼女たちいわく、ほとんどの子どもがモノリンガルと同じか、もしくはそれよりも早い時期に話すようになったといっていました。この話を聞いて、私はますますバイリンガルの子の言語発達の仕方に興味を持つようになったのです。

2006年のCenter for Applied Linguisticsによる研究には、こう書かれています。

多くの親たちがバイリンガル教育は子どもの言葉を遅らせていると信じているにも関わらず、モノリンガルもバイリンガルも言語発達の時期に違いはない。

子どものバイリンガル教育に関する研究や、世界中にいる研究者の努力にもかかわらず、「言葉の遅れ」がバイリンガル教育の副産物だとする誤解は、今になっても続いています。

しかし、探してみると、「バイリンガルと言葉の遅れ」に関するインターネット記事はたくさんあるものです。なかにはこんなものもありました。


子どもが言葉を話したり理解したりするのが遅れているのは、2言語というのが子どもにとってあまりにも難しいのです。こういう時には、私はよく親たちにどちらかより重要な言語をひとつ選ぶようにしなさいと言っています。こうすることで、子どもの言語の理解力が高まり、どちらか一つの言語でコミュニケーションするようになります。

善意でこういうアドバイスをする人を責めることはできません。多くの医療機関でも同じような指導がされているからです。

子どもに多数の言語を一度に覚えさせれば、その分「遅れる」というのも、論理的な説明のように聞こえます。同じものの名前を2つ覚えないといけないとなると、混乱をもたらすでしょうし、結果として言葉を使うようになれるまでに時間がかかるだろう…というわけです。

しかし、実際にはバイリンガル教育の子どもは1つのものを二重に覚えなくてはいけないわけではありません。大人が学校で英語を学ぶのとは違うのです。どの言語バケツにどの言葉を入れるのか、という方法で言葉を覚えるわけではないからです。バイリンガル環境にいる子供は、単純に自分の周りにある「音のパッケージ」を拾っているのにすぎません。子どもの脳がだんだん成長していくにしたがって、言葉やセンテンス、スピーチのパートなどの概念を理解していくようになるのです。子どもにとっての第一目標は、自分の言っていることを周りにわかってもらうことと、自分が話した時に周りから反応をもらい、自分にとって必要なものや欲しいものを手に入れることです。

基本的に、これが意味することは、子どもにとっては言語の発達、それ自体が複雑なプロセスであって、それが1言語であろうと、2言語であろうと複雑さは同じなのです。

Cornell Language Acquisition Labの研究には、このように書かれています。

マルチリンガル教育は子どもを混乱させると信じる親や教育者は多いですが、実際にはバイリンガルの子どもは言語の混乱や言葉の遅れ、認識不足などで苦しむことはありません。

バイリンガル教育で知っておくべきこと:

●バイリンガルの子はモノリンガルの子と同じような時期に話し始める。予想よりもずっと早く話す子もいるし、遅くなる子もいるが、家庭で話される言語数との関係性はない。だから、基本的に子どもの”全体の”言語発達には注意を向けておくべきだ。心配な場合は、信頼できるスピーチセラピストに相談するのもいい。

●モノリンガルの子と同様、バイリンガルの子もスピーチや認識の混乱をすることがある。これを親が理解しておくことは重要だ。子どもがバイリンガル環境にいるからといって、言語障害が全くないとは言い切れない。子どもが話しはじめるのが遅いと思ったら、できるだけ早く専門家に見てもらうことだ。しかし、この時に「どちらか一つの言語のみを選べ」と言われたら、なぜそれが必要なのかしっかりと聞いて、できるなら他のドクターからセカンドオピニオンを聞いておくべきだ。バイリンガルの環境が子供の成長にどのような影響があるのか、きちんと理解している人かどうかを見極めよう。モノリンガルの環境にすればどのように良くなるのか、それを証明できるような実験結果や具体的な研究があるのか、聞いてみよう。

●バイリンガルの家庭で育つ子どもは、言語を”教えられること”を必要としているわけではない。言語学習そのものが複雑なプロセスであり、子どもは周りの話を聞いてインプットし、一歩一歩発達していくのだ。子どもに母国語でできるだけ話しかけてあげよう。そうすれば、子どもの脳が理解するように働いてくれるでしょう。

 

おわりに

確かに、バイリンガルの子は言葉が遅れると信じられていますが、実際にはそうでもないという研究結果や事例が多いのも事実です。バイリンガルの子が言葉が遅い場合、「多言語だから」と安易な結論に結び付けやすいというのが問題点でもあるようです。本当ならモノリンガルでも起こりうることを、多言語環境のせいにするというのは、単純なぶん、注意が必要です。

国際結婚して子どもを育てている方は、どのようにしてバイリンガル教育をしましたか。子どもの言葉の発達に遅れはありましたか?ぜひ、コメント欄で教えてください。

参照:multilingualliving.com


6 コメント

  1. まさに今、育児中です。夫は英語、私は日本語、家庭では2言語使っています。
    私も多言語家庭は言葉が遅くなるとは良く聞きましたが、実際は(周囲のご家庭でも)そうでもありませんでした。話始めたのも、話す内容もほぼ平均的な時期で取り越し苦労でした。というと何も無かったかのように思えるかもしれませんが、育児の様々な過程に差し掛かるたびに、問題起きそうだ、話始めも遅いだろうと湧き出すかもしれない課題に常に構えながら育児している、という方がただしいかもしれません。
    面白いのは、今回ご紹介されているブログの通り、子供はイチイチ英語、日本語と区別して話始めるわけでは無いことです。後でバイリンガルになったパターンでは想像もつかない使い方、話し方が多いです。そもそも吸収し始めるときから垣根が無いので、バイリンガルだのトライリンガルだの、何か特殊な事のように思えることも、本人達は一番身近な親の話す言葉を真似して、音楽や歌を覚える感覚で、夫や私の絵本の朗読で言語を身につけていきました。
    言葉が遅いとかは歩く時期同様、個人差が有ると感じます。

  2. 子供はいませんが、学校で高校生に外国語を教える仕事をしています。

    「遅れ」てもそのうち追いつけられるもののであれば良いと思います。フランスはわかりませんが、バイリンガル教育が進んでいる国ならまあ安心できるかなと思います。「遅れ」というよりも、ディスレクシアの症状が出てしまう子はがバイリンガルの子には多いかなという印象をこれまで受けてきました。「話す・書く」はあまり問題がないのに、「読む・書く」が少し苦手です。漢字の書き取りや正しいスペリングに苦労します。もう高校生ですので、練習で上達していくものではありません。そういった子達は、どちらの言語使用も少し不自由そうで、どちらも未完成な印象を受けました。もちろん、そういった症状のないバイリンガルの子もいますし、モノリンガルの子の中にもスペルや漢字が苦手な子はいます。ただ、バイリンガルでディスレクシアという確率は少し高いように感じますし、読み書きが苦手なお子さんは併せて計算や暗記を苦手とするケースが多いのですが、バイリンガルでディスレクシアのケースは、苦手な部分が言語使用に限っているところが特徴的だと感じています。

    なぜ言葉に不自由が出てしまうのかはわかりませんが、その子達の親や兄弟は同じ症状がないようです。ただ、あるお子さんは、赤ちゃん~小学校低学年の時期に二国間で幾度か引っ越しをし、その都度使用言語を替えており、結果的に母国語がどちらかわからなくなってしまったと言っていました。一方、モノリンガル(その国での外国語)の家庭で育って、小学校入学でその国の言語に毎日触れるようになった子供たちは、問題なく両言語を使いこなしているように思います。もちろん、両方の言語で大学程度の教育を受けることは普通は難しいですから、大抵の場合はどちらかの言語がメインとなり、もう片方が日常会話程度のレベルになるケースが多いみたいです。

    あまり答えになっていませんが、私が持っている情報はこれくらいです。色んなバイリンガル子育て体験が聞けるといいですね。

  3. 私の母語はスペイン語で子供にはこの言語で接しています。私自身バイリンガルで主人は日本人なので3人の時は日本語 子供と二人の時はスペイン語で接しています。娘2歳ですが他の子と比べると話すのが遅いです。周りはペラペラなのにうちは 単語を一つ二つ並べるだけだったので かなり焦っていました。 ほとんどの情報では 混乱する、言語を一つにすると良い(専門家に相談した際 一つにする様言われたが科学的根拠は答えられないといわれた) と 書いてあったので 言語の統一を迷ってた時この記事を見て救われました。 だいぶ冷静になれたので感謝してます。 日本語訳の本があれば教えてくださると 助かります。私はバイリンガルですが 日本語もスペイン語も中途半端でどちらも使いこなせないです 娘には中途半端になって欲しく無いので 凄い必死です。

  4. 国際結婚ではありませんが、アメリカ在住の日本人です。子供は2人の息子で、バイリンガルです。
    バイリンガルは昔、モノリンガルより言語発達が遅いと言われてようですが、今は伝説となっているようです。
    それよりも言葉の表出だけでなく、どれだけ理解しているか、また年齢相応の精神年齢かどうかと言うことの方が大切なようです。お友達に小学2年生ぐらいまで、バイリンガルもしくはマルチリンガルの子供は言語が追いつかないと言われましたが、そうでもないと思います。いかに、それらの言語と触れる機会を与えるかと言うことだそうですよ。
    息子は2歳まであまり話さなかった(アメリカに渡ったのは1歳10ヶ月)のですが、もっと子供に話しかけなさいと言われました。日本人のママはどうしても、イラっとすると黙ってしまう人が多いようです、自分も含めて。

  5. これは純粋にそのお子さんの発達具合によるのかもしれません。
    私の知人のお子さんは、言葉の発達が怪しく、それ以外の発達も遅れていました。4歳でベビーカー、哺乳瓶でのませたり赤ちゃん扱いをしていた親御さんの問題もあると思いますが。その方は、日本語補習校に通わせたら、離せなくなってしまった子の話をしていました。
    ベビーカーの子はいまま年相応の発達をしていて健康です。

  6. うちもマルチリンガルな家庭です。妻は英語が母語で、私は日本語が母語です。妻からよく言われたのは、私は日本語を使い、妻は英語を使うということです。言い換えると、この人は何語を話すという一貫性があるほうが、子供が混乱しにくいという理由です。中国に住む期間があったので、お手伝いさんは子供に北京語で話してもらいました。わりとこな作戦が奏功したのか、言語能力の遅れはありませんでした。ただ、日本に住んでいても、妻との時間が長い子供たちは、英語が先に話せるようになり、日本語は遅かったです。本人てきには、友達や保育士と意思疎通するところにもどかしさを感じていたようですが、3歳までには、両言語とも同じレベルと思います。その頃から、英語の内容を日本語に直して他人に言うこともできるようになってました。

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