世界から批判される日本の児童養護施設について知っておくべき5つのこと

毎年、児童虐待のセンセーショナルな事件をニュースで目にするようになって久しい。数年前には、「なんて酷いことをする親がいるのだろう」とショックを受けたものだが、最近では「またか」という感想に変わってしまったという人もいるのではないだろうか。被害に遭った子どもが施設に無事に保護されたという報道を聞いては、胸を撫でおろす人も多いだろう。

児童虐待のニュースが流れると、学校や児童相談所の対応などが問題視され、虐待から子どもの命を守る対策がメディアでもクローズアップされる。早く無事に施設に保護してあげるべきだという意見は最もであるが、実はここで大切なことを見過ごしている。それは、保護された子どもがその後、どう成長して大人になるのか、という点だ。

しかし、実は保護された後の「施設での生活」こそが問題で、児童養護施設と里親制度をめぐる日本の態勢は、数年前から世界から非難されているのである。


国連の「児童の代替的養護(=社会的養護)に関する指針」には以下の記載があるが、この3つが現在の日本で守られているとは言えないのが現状だ。

  • 児童たちは原則、家庭環境が与えられること
  • 施設養護は段階的に廃止、脱施設化を進めていくこと
  • 施設への入所は、必要に応じたごく限られたケースのみとすること

こうした国際社会からの要請に眼をつむり、日本政府は今に至るまで家庭養護を無視してきたと批判されている。

さらに、我が国は2010年、「国連子どもの権利委員会」から公式な報告書内で勧告を受けている。

子どもの権利委員会 第三回日本政府報告書審査 最終見解
(2010年6月20日の勧告)

52(親の養護のない児童) 委員会は,親の養護のない児童を対象とする家族基盤型の代替的児童養護についての政策の不足,家族による養護から引き離された児童数の増加,小規模で家族型の養護を提供する取組にかかわらず多くの施設の不十分な基準,代替児童養護施設において広く虐待が行われているとの報告に懸念を有する。

要するに、国連では里親措置や特別養子縁組の取組みが著しく遅れていることを筆頭として、児童の権利を充分に担保するための政策が行われていないと指摘しているわけである。これが国家レベルでの児童虐待だという声もある。しかし、それでは具体的に日本の養護施設の何がそんなに問題なのだろうか。

そこで今回は、日本人なら知っておくべき「世界から批判される日本の児童養護施設の問題点」を5つ紹介する。あなたはこれでも、日本の児童施設&里親制度に問題はないと思うだろうか。

1虐待相談対応数は年々増加

以前は、児童養護施設は「孤児院」と呼ばれていたが、現在はむしろ孤児は少なく、親はいるが養育不可能になったため預けられている場合が圧倒的に多い。なかでも、虐待のため実の親から離れて生活をせざるを得なくなった児童の割合は年々増加している。

2013年2月の調査では、児童養護施設入所児童数のうち虐待を受けた経験のある児童の割合は59.5%だった(厚生労働省「児童養護施設入所児童等調査」より)。これは他の先進国と比べてみても、非常に高い割合である。

ちなみに、2016年8月、厚生労働省は、15年度に全国の児童相談所が対応した虐待通告件数が10万3260件(速報値)と、初めて10万件を超えたことを公表した。子ども虐待に関する統計が初めて取られた1990年の通告件数は1101件であり、25年の時間経過があったとはいえ、100倍にも及ぶ増加は特異なものであると言える。

もちろんこれは相談件数であり、実際の虐待数ではない。昨今のメディアによる虐待報道の結果ともいえるが、このように虐待を受けた子供が次から次へと施設に預けられているというのが現状なのである。

2慢性的な施設数&職員不足


このように虐待児が増えていけば、必然的に児童養護施設の入所可能人数や職員数が不足するのも予測ができるだろう。↑このドキュメンタリーで4:30頃に登場する児童養護施設職員HIROSHI NAKADAは、入所児童の個人的なスペースがなく、職員数も慢性的に不足していることを問題視している。

児童養護施設の職員というと、職員による施設内虐待という悪いイメージを持たれることも多いが、ほとんどの職員の仕事はかなりハードで、ほぼボランティア状態である。

職員一人で何人もの子供を同時に見なければならないし、親に捨てられ傷ついた子どもから理不尽な暴言を受けることもしょっちゅうだ。もちろん残業代なんて出ない。仕事はハードな割に、給料はコンビニアルバイトの給料と変わらない。待遇があまりにもひどいため、せっかく見つけた人材もすぐに離職してしまう悪循環を繰り返している。

このような現状からも、児童養護施設が日本社会から閉ざされた世界であることがわかるだろう。

3養子が成立しにくい法制度

日本の「捨てれた子」をめぐる最も根源的な問題が養子縁組委託率の低さである。

先進国の中で、4万7千人もの子どもたちが施設で暮らしているのは日本だけである。上のグラフからもわかるように、児童施設に預けられた子供が里親のもとに引き取られる確率は日本だけが圧倒的に低い。


日本国内では、年間平均3000人いる保護を必要とする赤ちゃんのうち、9割が乳児院に入所している。比較的里親が見つかりやすい乳幼児でも、ほとんどが里親に委託するまでに至らないというのが現状なのだ。これは世界的にみるとかなり珍しい。

なぜ日本では、里親委託はなかなか推し進まないのか。一番大きいのは、里親委託に対する実親の同意を得ることが難しい点にある。児童相談所の調べによると、多くの親が子どもを他の家庭に託すことに強い抵抗感を示すという。「子どもが託している家に愛情が移って、離れなくなるのが心配」「自分で育てるのは無理だが、手放すのは嫌だ」という理由だ。

ちなみに、アメリカやイギリスでは、産みの親が里親や施設に子どもを預けて、一定期間面会に来ないなど、適切に子どもの養護を行っていないと判断されると親権をはく奪されるが、日本にはこのような法的介入はもちろん存在しない。

さらに、養子縁組など親権について判断する機関が、欧米では裁判所なのに対し、日本は児童相談所という行政機関なので、なかなか先に進みにくい。日本の児童相談所は虐待相談への対応に追われており、里親委託まで手が回らないというのが現状なのである。

4施設で育つことの問題点

虐待から逃げ、施設に預けられたら、そこがゴールなのではない。国連が「施設養護は段階的に廃止、脱施設化を進めていくこと」を目標にするには理由がある。

まず、施設内の限られたスペースのなかで様々な年齢の子どもを入所させるとなると、中学生や高校生など「自分のスペース」が必要な子に割り当てられないという問題がある。さらに、少ない職員で大人数の子どもの面倒を見るとなると、日常の細々としたことにまで「ルール」をつくる必要に迫られるわけである。

この「ルール」にがんじがらめの生活で育った施設の子は、いざ大人になって社会に出ると、ルールなしにどう行動すればいいかわからなくなる。こう語るのは、先にあげたドキュメンタリー7:30あたりに登場するケンジさん27歳だ。社会のことが何もわからず、急に外に出されても、仕事がうまくいかない。工場の仕事はすぐに首になり、3か月間のホームレス生活を強いられたそうだ。

国連は、「児童養護施設に長く居すぎると、子どもの精神的・社会的を妨げる」としている。実際に施設出身者は学力も低い傾向にあり(大学進学率は全国平均75%に対し、養護施設の児童はわずか20%)、日本社会の最下位層の暮らしをしているケースも珍しくない。食べるもの、着るもの、寝るところが備わっていれば、子供は勝手に育つというのは間違いだ。愛情をもった大人が”見てあげる”ことで初めて、人として心が成長できるのである。

施設に保護されたからそこで「ひと安心」なのではなく、そこからが本当の意味での「生きる闘い」の始まりなのだ。

5国民の無知・無関心

そして、これらの問題の根本にあるのは、私たち国民の「無知・無関心」である。国連から再三注意がなされているにも関わらず、(筆者も含めてだったが)このことすら国民のほとんどが知らない。虐待問題についての報道は目にするが、「児童養護施設で成長することの問題点」や「日本独自の里親制度」について触れた報道はほぼない。

虐待は、日本の子育て世代にも関係した話なので注目を集めやすいが、施設に保護された子どもがどう居きるのかなんていう問題は、ほとんどの人にとっては他人事なのである。

施設に預けられる子どもというのはどこの国であってもマイノリティーであるが、マイノリティーだから無視していいというわけではない。むしろ、マジョリティーではなくマイノリティーが生きやすい社会づくりを目指すことが、先進国の使命ではないだろうか。

そのためにはまず、私たち国民の一人一人が、自分には直接関係のない「マイノリティー」に目を向けることだ。

施設出身者、親がいない子ども、母子家庭、同性愛者、身体障がい者、精神障がい者、在日外国人、ホームレス、ハンセン病患者、エイズ患者…

世界にはたくさんのマイノリティーがいて、世界をつくっている。マイノリティーの声に耳を傾け続けること。

これが先進国に生きる、マジョリティーの義務ではないだろうか。

 

【参照メディア】

  • アゴラ言論プラットフォーム、国連から「子どもの人権侵害」への懸念で勧告を受けている日本
  • 朝日新聞GLOBE、日本における特別養子縁組の現状と課題
  • Jcastテレビウォッチ、身勝手すぎる親たち!里親委託・養子縁組受けられない子供増加…「自分は育てられないがヨソの子にするのイヤ」
  • 日本財団ハッピーゆりかごプロジェクト、気になるハナシ
  • ウィキペディア、『児童養護施設』
  • 厚生労働省、児童養護施設入所児童等調査の結果(平成25年2月1日現在)

10 コメント

  1. すごく考えさせられました。日本では子供を望んでも諦めなければならなかった夫婦がいても、里親になろうという家庭はなかなか居ない(新生児ではなく、施設保護児童からは)のも、法律の壁はもちろんですし日本の「血縁主義」が根底にあるとも感じます。
    育児に関する価値観の違い(法的受け皿も含めて)がとても顕著なのが、海外では実子有無や異人種に関係なく里親になるべく愛情を持って子育てしたい家庭への門戸と社会的理解が多数ある事です。実子が既に居る夫婦の場合、多分日本では法律の壁もあって「産めるならもう一人生めばいいのに」と思われてしまうはずです。
    海外の社会的理解といっても、宗教の価値観から妊娠中絶反対の声もあがる某先進国などは、誰の子であれ生まれてきた子供を社会がなんとかせねばならないという倫理観(あとから派生したのか先にこの考えがあったのか不明ですが)を感じます。それゆえに施設での育成カウンセリング・職員の人権等も日本とは温度差があると思います。
    このテーマは興味を持つ=不安に思うことかもしれません。無関係な話ではないです。一人でも多くの子供達が将来に向けて高齢者・子供を支える大人に育つ(生活力を身につける)環境がいかに重要か…今まさに少子化だからこそズシンときました。

  2. 日本の場合、結婚できない人も多くなり
    貧困が蔓延しつつある中で、子供どころではない状況になりつつあるのではないでしょうか。
    東京出身ですが、地方の人のようには結婚していない人が多いです。
    地方もまた、結婚しない、できない人が増えているようにも見えます。

    それとオーストラリアですが
    里親になった家族の一人である者が11歳の少女をレイプし、その父親が少女を殺した上に
    親子でしらを切り、親子で逮捕されていた白人家族がいました。
    度々そういった事件を目にします。
    子供が安心していられるはずである守るべき場所で起こった事件が目につきます。
    教会等、信頼できるはずの神父が幼児含め未成年に対する性的な犯罪で逮捕されています。

    何かしらの目的があり、預かる側もあると思われます。
    一般家庭に預ける場合の危険は、やはりありますでしょうね。

    • >子供どころではない状況になりつつある
      そうなのかもしれませんね。先進国でありながら、未来を担う子供と、社会的地位の低いマイノリティーに構ってられない状況になると言うのは、何とも悲しいことです。
      >オーストラリアの件
      そういった事件はどこの国でもあり、里親に預ければそれでOKという考え方も安易だと思います。しかし、そもそもの里親に委託するまでに至らない法制度は変えていくべきではないでしょうか。

  3. 猫組長 ‏@nekokumicho

    海外に住んで日本を悪く言う人は、日本での社会的地位や属性がよほど低かったんでしょう。
    祖国を誇れない人は異国で馬鹿にされるからストレス溜まるでしょうね。

    • できるだけ事実を忠実に伝えようと、いろいろな記事や報告書を参考に時間をかけて書いた記事なのに、その程度のことしか読み取ってもらえなかったのかと思うと、本当に悲しいです。
      私は何も「日本を悪く言いたい」わけではなく、傍から見ているからこそ、「ここを改善すればもっと良くなるのに!」と思うから、日本がもっと良い国になればいいと願うからこそです。
      あなたのように臭い物に蓋をして、「外国人から褒められる日本」ばかりをテレビで放送し、問題の本質をすり替える人ばかりなのかと思うと、本当に日本の将来が心配です。

      • リリーさんが日本を悪く言う人だと思う人はいないと思いますが、少なからず
        こういう視野の狭い文面の理解のできない人は日本にはとても多いと思います。
        客観的に観ることも勿論できない人でしょうね。

        「日本での社会的地位や属性がよほど低かったんでしょう。」

        さあ この意見ですけども、海外で活躍されている人のほうが
        社会的に評価される職業の方が多いと思います。
        属性が低い等と思うような方は存じません。
        勿論、「国」にもよりますけどね。
        場所を限定し、フィリピンのマニラとか、タイのパタヤならわかる気もします。

        日本の良い部分も悪い部分も、おかしな部分があり、非常識な人々がいたりすることも
        事実。

        リリーさんは丁寧に、このような意見に返信されるのですね。。
        お優しい方ですね。

  4. 私も養子縁組については考えたことがあったのですが、母からの、「ペットではない」「その子に反抗期がきたとき、病気とかになったときその子の本当の両親のせいにしないって絶対に言える?」に一気に自信喪失でした。私の本当の子供だったら…って絶対に考えてしまう。それは養子縁組した子供を傷付ける。

  5. 養子縁組後の虐待に触れていないことがミソだな。
    これらは施設で集団生活をする子供たちよりも被害に遭いやすいという統計があったはず。
    もちろん、日本でも施設の子供たちの職員による虐待は多いのだが、社会的名誉や補助金目当ての養子縁組制度のどこが良いのかは個人の意見による。
    もともと集団として行動することに慣れる日本としては、現行の方が被害が少ないと思うね。
    海外は個人の尊厳を大事にし過ぎて孤立主義を招いて、結果的に人格を尊重しない文化になってきているんじゃないの。やりすぎだよ。

  6. >先進国の中で、4万7千人もの子どもたちが施設で暮らしているのは日本だけである

    >なお『Metro』によると、2016年の3月末の時点で英国内では70,440人の子供たちが施設に入居しており、
    >養子縁組を待っている状態だそうだ。

    だ、そうですよ。
    ところで未成年のホームレスの数はカウントされないんですかねぇ。
    日本にはほとんどいませんが。

  7. 中々興味深い記事でした。
    やはりネットで告知して回るというのも重要な広報ですよね。

    結論の部分を見て思うのですが…こういう社会に対する啓蒙のための記事って難しいですよね。ちょっと言葉が違っただけで猛反発を受けることもありますので…。

    で、細かなところで恐縮なんですが「マイノリティーが生きやすい」ではなく「マイノリティーも生きやすい」もしくは「マイノリティーでも生きやすい」に直したほうがよいかと。これは良く間違える方が居るのですが、「が」にしてしまうとマジョリティは生きにくくてもよいことになってしまうという残念な文章になります。
    一部少数がよければ他はいい・・・という意味になると特権階級と変わらないので、書くときには気を付けたほうが良いかもしれません。

    それと、相談件数の増加は通報制度や窓口を政府が整備したからです。
    整備して効果が出たことを根拠に批判するのは流石にどうかと思いますので「ここまで整備して結果が出たのだから、次のステップはこれです!」と訴えるほうが好ましく見えますよ。
    ちなみに相談件数は、1児童に対して何回もカウントされますから、委託児童数とは無関係なものです。これを示してさも急激な増加をしているように見せかける…というようなことを、わざとやっているわけではないでしょうから、たまたまこのようになったのだとは思いますが…やめたほうがいいかもしれません。

    色々資料をしらべたのならばご存知と思いますが、委託児童数自体はそう急激に増加していません。ですが児童数全体が減少傾向ですので、率にするともう少し増加傾向が見えてきます。虐待経験数も同じで、児童総数×委託率×虐待経験率で指数を出すと傾向が見えやすくなると思いますよ。
    真っ当なグラフを提示したほうが無用な批判も招かず良いと思います。

    この問題の場合、たぶん一番重要なのは広報活動とその透明性だと思います。
    大げさに表現して政治批判になり、実数字から反撃にあい、撃沈して印象に残らない・・・というパターンをよく見かけるので、あまり派手に見せかけずに、真っ当に広報してくださる方が増えれば、また変わってくるのかもしれません。
    海外においては海外の問題があり、分母である要保護児童数をそもそもどう判断するか…というとこから違っていますので、社会問題の国際比較はかなり難しいジャンルです。同じ条件なら簡単に比較できますが、法律からなにから条件が違うので。あまりお勧めできないジャンルなのであまり無責任に頑張ってくれとも言えませんが、、、良い活動だと思っています。

    ですがあまり単純数字で比較して「遅れている」「特別に悪い」という書き方はあまりオススメできません。その数字のはざまに違う福祉が隠れていたりして必ずしも悪いと言い切れない状況もありますし、有り難くないものが釣れますので・・・

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